以前、コラムでも説明しましたが、静止して立っていても、力を入れている筋肉はあります。
全身の筋力を抜くことができるのは、寝ているときだけです。
平らな地面にまっすぐ立っていても、
足首や膝、股関節、たくさんある椎骨の関節を静止状態に固定するために、
その関節にかかわる多数の筋肉が、
最小限の力ですむように
脳が力の量を無意識に計算してくれて、
バランスを取り合っているから、
まっすぐ立っていられるのです。
この状態は、外力がない状態のバランスです。
風が吹いたら、また、筋力のバランスを取り直して、静止状態の立位にします。
これが、坂道になったら、また、筋力のバランスが変わります。
関節の運動で、屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋などの可動については、関節の周囲の筋肉が収縮することで起きます。
そのことは、誰もが知っていることです。
しかし、静止していても筋肉に力を入れていることや、関節を固定するために筋肉に力を入れていることなどは、知らない人が多いと思います。
ここからは、その説明をしていきます。
関節の話をするときに、高校レベルの力学を使用します。
まず"力の量は矢印の長さ”で示します。
"力の方向は矢印の方向”です。
そして、矢印は、力のかかる所、”力点”から力の方向へ伸ばします。
次に、二つ以上の力が合わさって一つの力になることができます。これは、”合力”といいます。合力は、ここでは用いらないので、名前だけにします。
関節を説明するときに用いるのが”分力”です。
これは、一つの力を二つ以上に分けて考えることです。
ここでは、筋力を二つに分けて使います。
一つの力を二つに分ける場合、二つの力は、
”もとの力を対角線にする平行四辺形で表す力の量"になります。
試しに、ラセーグテストの姿勢で膝をまっすぐにして片足を上げて静止した状態の力を矢印で表してみましょう。
股関節は床との摩擦で関節の位置はずれないものとします。
足首は、股関節を支点とした緑の円弧上を動くことにします。
足首には重力がかかっているのに、持ち上げて静止していなくてはなりません。
どこの筋肉に力を入れて、足を上げた状態にすればよいのでしょうか。
足関節には、重力がかかっているので、それと対称の力(赤色)がかからないと静止しません。足関節は緑の円弧上しか動けないので、赤色の力は薄黄色の力量になります。しかし、実際その力を作っている筋肉は骨(灰色)に沿っているので、足首の筋肉の力はピンクになります。ピンクの力がかかって足首は持ち上がっています。
足関節にピンクの力を生むために足関節と膝の間の筋肉は収縮しますが、筋肉が収縮する場合、両端に対称の力が生まれます。だから、ピンクの力が生じたら、膝関節の所に黄緑の力が生まれます。
膝関節は空中に浮いていますが、静止しているので、膝関節にかかる力のバランスがとれていなければなりません。
黄緑の力で引っ張られたら、対抗して緑の力を作らなくてはいけません。
筋肉は収縮する時、両端に対称の力が生まれます。膝関節に緑の力が生じたら、股関節に水色の力がかかります。
股関節に水色の力がかかったら、股関節には床が押し返す力(薄茶色)や摩擦力(黄色)があっても股関節を静止させるために、腹筋や殿筋や大腰筋など(紫色)が収縮しなくてはなりません。
結局、足を持ち上げた状態を保つには、足の筋肉全ての筋肉や腹筋や殿筋、大腰筋などを収縮しなくてはいけないのです。もっと細かく言うと、腹筋や殿筋、大腰筋の収縮は上半身にも波及して、全身の筋肉を使うことになります。
筋肉は収縮するとき両端に対称の力が生まれます。
今回は、筋肉の収縮力を物理の力学で表そうとしました。しかし最後は、筋肉の収縮の説明になってしまった気がします。関節を静止させるためのバランスの力学もわかってもらえたでしょうか。